読み終えた、という未読——『読んでいない本について堂々と語る方法』

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『読んでいない本について堂々と語る方法』

読んでいない本について堂々と語る方法
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この本は一度、最後まで読んだ。時間が経って、内容の多くはもう頭にない。トピックの内容を覚えていても文章についての記憶は全くない。記事を書くなら読み直すべきだろうか。ちゃんと読んでから語るという無意味な衝動こそ、この本のテーマの一つである。

ピエール・バイヤール『読んでいない本について堂々と語る方法』。タイトルは強烈だ。読まずにやり過ごす小手先の技術を並べた本だと思って開くと、肩透かしだろう。バイヤールは怠惰を擁護していない。彼が書いているのは、もっと地味で動かしがたいことだ——完全に読むことなど、誰にもできない。

彼は「読んでいない」状態をいくつかに分ける。一度も開いたことのない本。ざっと目を通しただけの本。人から聞いて知っている本。そして、読んだのに忘れてしまった本。最後のひとつに、私はいま片足を入れている。すべてが未読である。

バイヤールはこの忘却を、読書の事故ではなく常態として書く。本を閉じた瞬間から、内容は薄れはじめる。半年もすれば、筋も、人物も、自分がどこで頷いたのかも曖昧になり、残るのはぼんやりした輪郭だけだ。すると奇妙なことが起きる。読んで忘れた本は、人から聞いて知っているだけの本と、見分けがつかなくなる。一冊の本は、読んだか読んでいないかの二択にあるのではなく、そのあいだのどこかを、時間とともに移動していく。

とすれば、この記事を書いている私の立場——一度読み、すでに忘れつつある——は、後ろめたい告白ではなく、バイヤールの言う読者そのものの姿だ。読み終えた本と、読んでいない本は、思っているより隣り合っている。

では忘れたあとに残るものは何もないのか、というと、そうでもない。残るのは本そのものではなく、読みながら自分が組み立てた像のほうだ。私たちが本について語るとき口にしているのは、いつもその像で、本そのものではない——バイヤールはそう言う。

本と本の関係を読む。

バイヤールにとって、語りうる教養があることは、ある一冊を深く読み込んでいることではない。その本が、ほかの本とどんな位置関係にあるかを知っていることだ。中身を抱えているかどうかより、関係を見渡せているかどうか。読書の重心は、一冊の内側から、本と本のあいだへ移る。

彼はムージル『特性のない男』の図書館員を引く。膨大な蔵書をどうやって把握しているのかと問われて、その司書は、自分は一冊も読まないのだと答える。中身に立ち入れば、全体の見晴らしを失う。だから題名と目次だけにとどめ、本と本の関係だけを見ている。バイヤールはこれを笑い話としてではなく、ひとつの理想として扱う。

読んでいない本について語れるのは、おそらくこのためだ。私たちが口にしているのは本の内側であることはまれで、たいていはその本が占める位置——ほかの本との関係のほうだ。位置は、通読しなくても掴める。

そして位置は、忘却にも強い。一冊の中身は読んだそばから薄れていくが、それが書物の地図のどこにあったかは、案外あとまで残る。

語ることは、自分を語ること

本と本の関係の、さらに奥に、人がいる。

バイヤールの最後の身ぶりは、本から離れて読み手のほうへ向かう。一冊について語るとき、私たちは結局、自分について語っている。どの本に惹かれ、どこで立ち止まり、何を読み落とすか——その選び方に、その人が出ている。書評や感想と呼ばれるものの多くは、本に名を借りた自画像だ。

バイヤールは、読んでいないことを恥じるな、と言う。恥は本そのものから来るのではない。完全に読み、正しく覚えていなければ語る資格がない、という、外から与えられた規範から来る。その規範を下ろすと、黙って頷くだけだった場所に、自分の声が戻ってくる。

戻ってきた声は、本に忠実である必要はない。私たちが語っているのはもともと、本そのものではなく、自分が組み立てた像のほうだった。ならばその像を自分のものとして引き受け、語ればいい。忠実な要約よりも、その本が自分の中で何を動かしたかのほうが、語るに足る。

ここでこの本は、批評の書のはずだったものを、静かに作る側へ押し出す。読んでいない本について語れるようになるとは、他人の本の前で小さくなるのをやめ、自分の言葉を持つということだ。語ることと書くことのあいだに差はない。

この記事も、そうやって書かれている。バイヤールの正確な報告ではなく、忘れかけた一冊を借りて、自分が何を考えているかを確かめている。一度読んで、忘れて、それでも残ったものについて書く——それが、この本が許し、勧めてもいる語り方だった。

読んでいない本について堂々と語る方法
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この本をこのブログの一冊目に紹介しようと思う。これからも様々な「未読」の本を紹介していきたい。

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